中国からのタングステン対日輸出がゼロに——「価格高騰」から「調達不能」へ局面が変わった今、製造現場が取るべき行動

状況は「値上がり」から「手に入らない」へ

2026年3月に公開した前回のコラム「タングステン価格高騰が直撃する 超硬切削工具の値上がり対策と今すぐできる代替戦略」では、APT国際価格の急騰・中国の輸出規制強化・世界的な供給懸念という「三つの逆風」が、超硬工具の単価上昇・納期長期化・工具確保難という「三重苦」をもたらしている実態をお伝えしました。

あれからわずか3ヶ月。状況は、さらに深刻な段階へと進みました。

2026年527日、共同通信の報道により、中国税関総署のデータをもとに、20262月〜4月の炭化タングステンおよびタングステン粉末の対日輸出量がゼロであることが明らかになりました。住友電気工業も同月、中国からのタングステン調達が「完全にストップした」と公式に発表しています。

「値段が上がった」という問題が、「そもそも買えない」という問題に質変化しています。製造現場に求められるのは、コスト対策にとどまらない、工具調達の構造そのものを変える発想です。

 

なぜ輸出が止まったのか——規制の背景と仕組み

タングステンの世界生産量の約8085%は中国が占めています。この構造的な偏在は以前から指摘されていましたが、20252月に中国商務部がタングステンを含む重要鉱物への輸出管理を即日発動したことで、局面は一変しました。

制度上は「禁輸」ではなく許可申請制です。しかし現場では、許可が下りないケースが相次ぎ、事実上の輸出停止状態が続いています。さらに20261月、中国政府は「日本の軍事力向上に寄与すると判断される最終用途」への輸出禁止方針を明示。切削工具であっても「軍事転用可能性あり」と判断されれば止められるリスクが生まれました。

その結果として、2月以降、炭化タングステン(WC)とタングステン粉末(W粉)の対日輸出が完全にゼロとなっているというのが、今回の報道の核心です。

国内メーカーへの影響はすでに出ている

この状況を受け、国内大手各社はすでに具体的な対応策を発表・実施しています。 

企業・動向

内容

住友電気工業

中国からの調達が完全停止。米国からの調達増とリサイクルで対応中

三菱マテリアル

インサートや超硬ドリル・エンドミルなどを20%以上値上げ(20266月受注分より)

タンガロイ

旋削ISOインサート12%・超硬エンドミル10%以上など多品目を6月より値上げ

日本新金属

2026年4月出荷分より受注数量を前年度比約80%に制限

アライドマテリアル

富山県に約159億円を投資し新工場建設へ(2028年度上期稼働予定)

 大手が軒並みこのような対応を余儀なくされている以上、中小規模の製造現場への影響はさらに大きいと考えるべきです。在庫が潤沢な大口顧客から優先供給される傾向があり、小ロット発注・特殊品・スポット対応を求める現場ほど、調達難の影響を直接受けます。

 

「待てば解決する」という前提が崩れた

前回のコラムでも触れましたが、今一度強調したいことがあります。

「値上がりが落ち着くまで待つ」という選択肢は、もはや存在しません。

今回の輸出停止は、単なる価格変動ではなく、日中関係の悪化を背景にした地政学リスクの現実化です。住友電気工業が国内での代替生産ラインの整備に巨額投資を決定したことが象徴するように、産業界はすでに「中国依存からの脱却」を中長期の構造問題として捉え始めています。

では、今すぐ製造現場が取れる行動は何か——

 

今すぐ着手すべき3つの対策

 超硬使用量を物理的に削減する工具設計への転換

前回コラムで詳述した超硬板チップロー付け工具への切り替えは、原料調達が止まった今こそ最も有効な対策です。

超硬ソリッド工具は工具全体に超硬合金を使用するため、タングステンの影響を丸ごと受けます。これに対し、超硬板チップロー付け工具は刃先の切削チップ部分だけに超硬合金を使用し、シャンク部(工具本体)には一般構造用鋼やSKD系工具鋼を採用します。

工具一本あたりの超硬合金使用量を大幅に削減できるため、タングステン不足の影響を最小化しながら必要な切削性能を維持できます。また、刃先チップの再ロー付け・交換によって工具本体を長期再利用できるため、廃棄ロスの削減とトータルコストの低減にも直結します。

特に大径超硬工具(φ20mm以上)からの優先的な切り替えを推奨します。大径品は超硬使用量が多く、単価上昇の影響が最も大きく出るためです。

ハイス工具への転換も有効な手段です。

 汎用・市販切削工具への追加工・改造による特殊工具化

市場にはまだ流通している汎用・市販切削工具に追加工・改造を施すことで、専用カスタムメイド工具と同等の性能を持たせる手法です。調達しやすい汎用品をベースにするため、超硬素材の新規調達量を最小限に抑えながら、複雑な形状・角度・精度が求められる加工にも対応できます。

特に以下のケースで高い効果を発揮します。

  • 専用工具の発注リードタイムが長すぎて生産に間に合わない
  • 手元に「少し加工すれば使えそうな」汎用チップなどがある
  • 航空宇宙・自動車・半導体向け難削材加工で対応工具が市販品にない
  • 既存工具を別用途・別仕様に転用・改造したい

 使用済み超硬工具のリサイクル・再生加工の積極活用

住友電気工業が対応策の一つとして明示したように、使用済み超硬工具からのタングステン回収(リサイクル)の重要性が急速に高まっています。

摩耗した工具を廃棄するのではなく、再研磨・再生加工による再利用、あるいは回収・リサイクルルートへの流通を積極的に進めることが、サプライチェーン全体の安定化に貢献します。「廃工具=廃棄物」から「廃工具=タングステン資源」への意識転換が、今後の製造現場に求められます。

 

中長期で考えるべきこと:サプライチェーンの「脱中国依存」

今回の事態が示すのは、特定の国・地域への過度な依存がいかに製造現場の脆弱性を高めるかという問題です。

世界ではすでに、タングステンの代替調達源としてカナダ・ポルトガル・ルワンダ・ブラジルなどへの注目が高まっています。また、国内においてもリサイクル由来のタングステン原料の活用拡大が、重要な対策の一つとして位置づけられています。

工具の調達先や設計思想を見直すことは、目先のコスト対策であるとともに、中長期的な製造リスクの分散でもあります。

 

ハマツールにできること

ハマツールは、長野県茅野市を拠点とする特殊切削工具の設計・製造メーカーとして、こうした状況に正面から向き合っています。

  • 購入制限はあるものの超硬素材の調達が可能です(リピート品に限って大径ソリッド、再ムクの手配も可能です)
  • 超硬板チップロー付け工具への設計変更提案:使用中の超硬ソリッド・先ムク工具からの最適な切り替え案をご提案します
  • 汎用スローアウェイチップや市販工具への追加工・改造:手元の汎用チップを特殊工具へ転換します
  • 再研磨・再生加工・チップ交換:摩耗工具の廃棄ロスをゼロに近づけます
  • オーダーメイド特殊工具の設計・製作:市販品では対応できない加工要件に一から応えます

「うちの条件は特殊すぎて難しいのでは?」という思い込みが、最も大きな機会損失につながっています。まずは現在の工具コスト・調達状況・加工条件をお聞かせください。一緒に解決の糸口を探します。

まとめ

POINT

  1. 2026年24月、中国から日本への炭化タングステン・タングステン粉末の輸出量がゼロになったことが税関データで判明
  2. これは「価格高騰」ではなく「調達不能」という新しいフェーズへの移行を意味する
  3. 国内大手メーカーも値上げ・受注制限・新工場建設など、構造的な対応を迫られている
  4. 今すぐ取れる対策は超硬使用量を削減する工具設計への転換、汎用チップなどの追加工・改造、再生加工の積極活用の三本柱
  5. 中長期的には、調達先の分散とリサイクル活用によるサプライチェーンの脱中国依存が製造現場の競争力を左右する

 「値上がりが落ち着くまで待つ」という時間は、すでに過ぎています。今こそ、工具の設計・調達方法を能動的に見直す最後のタイミングです。ハマツールは、その変化をご一緒に実現するパートナーとして、全力でサポートします。 

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7月、東京ビッグサイトでお会いしましょう!

ものづくり ワールド [東京] 2026 機械要素技術展
2026年7月1日(水)〜3日(金)

▶ 来場事前登録(無料)はこちら ※下記の招待URLからご登録いただけます
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会 場
東京ビッグサイト 東展示棟
東3ホール ブース番号:E24-323(角小間)茅野市・諏訪市共同出展

出展社公式ページ(株式会社ハマツール)

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