タングステン危機は「次のステージ」へ ―― 韓国・上東鉱山、米国リサイクル材、そして製造現場がいま取るべき一手

これまで4回にわたり、タングステンをめぐる状況の変化を追いかけてきました。

第1弾(2026年3月):「タングステン価格高騰が直撃する 超硬切削工具の値上がり対策と今すぐできる代替戦略」では、APT国際価格の急騰・中国の輸出規制強化・世界的な供給懸念という「三つの逆風」が、超硬工具の単価上昇・納期長期化・工具確保難という「三重苦」を引き起こしている実態をお伝えしました。

第2弾(2026年3月):「超硬とハイスの良いところどり|単価上昇・納期長期化を乗り切るオーダーメイド切削工具戦略」では、超硬一辺倒からの脱却として、ハイス+コーティングという選択肢や、工具設計そのものを見直す発想の重要性を掘り下げました。

第3弾(2026年6月):「中国からのタングステン対日輸出がゼロに――『価格高騰』から『調達不能』へ局面が変わった今、製造現場が取るべき行動」では、中国税関のデータから2026年2月〜4月の対日輸出量が実質ゼロであることが判明し、事態が「値上がり」から「入手不能」というまったく別の次元に移行したことをお伝えしました。

第4弾(2026年6月4日):「超硬工具スクラップの国内循環が急務に|日本機械工具工業会ガイドライン改定が製造現場に突きつける『廃工具管理』の新常識」では、日本機械工具工業会がスクラップの海外流出防止を目的にガイドラインを改定した経緯を取り上げ、「廃工具をどこへ渡すか」という現場の日常業務が、日本の製造業全体の資源安全保障に直結する時代になったことをお伝えしました。

📌この一連のタングステン問題への取り組みについて、このたびNHK「おはよう日本」内のコーナー「おはBIZ」から取材を受けました。放送日は未定ですが、決まり次第ハマツールのInstagramにてお知らせいたしますので、ぜひご覧いただければ幸いです。 ▶ハマツール公式Instagramはこちら

あれから2ヶ月あまり。2026年8月現在、状況はさらに動いています。今回は、この夏に入って明らかになった新しい動きと、それを踏まえて製造現場がいま具体的に何をすべきかを整理します。

この夏の3つの新しい動き

① 韓国・上東(サンドン)鉱山が32年ぶりに本格稼働。「日本向け供給」が視野に

2026年3月、韓国江原道でカナダ企業アルモンティ・インダストリーズが上東鉱山の竣工式を行い、32年ぶりに採掘を再開しました。上東鉱山は中国を除く世界のタングステン埋蔵量の約半分を占めるとされる有数の鉱床で、増設が完了すれば単独の鉱山として世界第2位の生産規模になる見込みです。

そして2026年7月、この上東鉱山からの「日本向け供給」を視野に入れた動きが報じられました。地元自治体や企業が日韓の産業連携を模索しており、実現すれば中国に一極集中してきた日本の調達先が広がる可能性があります。ただし、当初生産分の大半はすでに米国向けに供給契約が結ばれており、日本への安定供給が実際に軌道に乗るまでにはなお時間がかかると見られます。「調達先が増える希望」と「即効性のある解決策ではない現実」の両方を、冷静に押さえておく必要があります。

② 米国からのタングステンスクラップ(再生原料)輸入が急増

中国からの新材輸入が完全に止まる中、日本は米国などからのタングステンスクラップの輸入を急速に増やしています。2026年1〜3月期の米国からのタングステン再生材輸出は前年同期比で全体では3倍、日本向けに限ると24倍にまで拡大したと報じられました。中国依存からの脱却を図る動きとして、リサイクル原料の比率を高める取り組みが、業界全体で加速しています。

一方で、再生原料はロットごとに成分がばらつきやすく、品質の安定確保が課題になります。「新材が手に入らないから再生材へ」という単純な代替では済まず、回収・選別・成分管理の精度をどう担保するかが、今後のサプライチェーンの鍵を握ります。

③ 「廃工具管理」の新常識が、具体的な仕組みとして動き出した

第4弾コラムでお伝えした日本機械工具工業会によるガイドライン改定は、その後も着実に具体化が進んでいます。改定にあわせて、国内還流の方針を表明した回収業者をまとめた「リサイクル窓口事業者リスト」が6月下旬に公表され、複数の超硬合金メーカーがすでにこのリストに名を連ねています。あわせて工業会内には、リサイクルや調達強化の司令塔となる「タングステン原料委員会」が新設され、経済産業省からも業界団体を通じて超硬スクラップの国内循環への協力要請が出されました。

つまり、「使用済み工具をどこへ渡すか」という現場の判断が、単なる社内ルールの話ではなく、どの回収業者を選ぶかによって国内循環に貢献できるかどうかが変わる、実務上の選択になったということです。工具メーカー各社もリサイクル原料使用率の引き上げを中期目標として掲げており、廃工具の管理・回収ルートの見直しは、コスト対策と同じレベルの経営課題になりつつあります。

つまり、局面はどう変わったのか

第3弾でお伝えした通り、状況はすでに「価格が高い」から「モノが手に入らない」という段階に進んでいました。この夏の動きを整理すると、次のことが見えてきます。

○供給網の多元化は「始まった」が、「完成」はまだ先。 韓国・上東鉱山という新たな選択肢は生まれましたが、生産量・供給契約・物流体制のいずれも発展途上であり、短期的な代替調達源として即座に頼れる状態ではありません。

○「新材確保」から「循環と再生」へ、戦略の重心が移っている。 米国からのスクラップ輸入急増や国内ガイドライン改定は、いずれも「新しく掘る」のではなく「今あるものを回す」方向への転換を示しています。工具を使い切って廃棄するのではなく、いかに回収・再生加工(再研磨・チップ交換)で延命させ、循環に乗せるかが問われる時代になっています。

○メーカー各社の価格改定は一巡しつつも、供給制限は続く。 2026年6月前後には主要工具メーカーがそろって価格改定を実施しました。価格面はある程度織り込まれつつある一方、特殊品・大径工具・超硬ソリッド工具については、価格高騰、納期長期化や受注制限が依然として残っています。

製造現場がいま取るべき行動

こうした状況を踏まえると、製造現場が取るべき方向性は、第1弾・第2弾でお伝えした内容の延長線上にありつつも、より具体性を増しています。

1. 工具の設計思想そのものを見直す 超硬ソリッド工具・超硬先ムク工具から、刃先部分だけに超硬を使う超硬板チップロー付け工具への切り替えは、引き続き最も即効性のある対策です。工具1本あたりの超硬使用量を減らすことで、原料調達リスクの影響そのものを小さくできます。

2. 適材適所でハイスを選択肢に戻す 大径工具や断続切削の多い工程では、ハイス+コーティングの組み合わせでタングステン依存度を下げつつ、必要な性能を維持できる場合があります。超硬一択の発想から離れることが、調達リスクの分散につながります。

3. 「延命・再生」を前提とした工具運用に切り替える 刃先が摩耗しても、再研磨やチップ交換による再生で工具を使い続けられる設計・運用は、廃棄ロスの削減とコスト圧縮の両方に効きます。使い捨てを前提にした調達計画は、この局面では見直しの余地が大きいと言えます。

4. 調達先・調達方法の分散を今から準備する 韓国からの供給や米国リサイクル材の活用など、選択肢が少しずつ増え始めているのは事実です。ただし、これらが自社の調達網に組み込まれるまでには時間がかかります。「状況が落ち着いてから動く」のではなく、今のうちに複数の調達ルートと工具仕様の代替案を検討しておくことが、中長期的な製造リスクの分散につながります。

おわりに

タングステンをめぐる状況は、この半年で「価格高騰」→「調達不能」→「供給網の多元化と循環へのシフト」と、局面を変えながら進んできました。今後も、韓国からの供給実現の動向、国内リサイクル体制の強化、各メーカーの受注制限の推移など、注視すべきポイントは多く残っています。

ハマツールは、長野県茅野市を拠点とする特殊切削工具の設計・製造メーカーとして、こうした状況の変化に正面から向き合っています。購入制限がある中でも超硬素材の調達は可能であり、使用中の超硬ソリッド・先ムク工具から、超硬板チップロー付け工具やハイス工具+コーティングなどへの設計変更提案も行っています。もちろん引き続き、大径ソリッド・大径先ムクの手配も可能です。

「うちの加工条件は特殊すぎて難しいのでは」という思い込みを持っているケースほど、意外にシンプルかつ低コストな代替案が見つかることがあります。工具の設計・選定・調達方法を能動的に見直すための第一歩として、まずは現状の課題を整理し、お気軽にご相談ください。

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